ダリアの丘で待ってる 〜西谷、秋の帰り道〜 #29-5

土曜日、西谷の収穫祭が開かれた。

地元の野菜が並ぶテントの前を、子どもたちが走り回っていた。煮炊きのいい匂いが漂い、あちこちで笑い声が上がっている。美咲は久しぶりにこのにぎやかさを思い出した。この空気を、東京では吸えない。

父の姿を探すと、黒枝豆の出品コーナーの前に父が立っていた。となりの男性と声を上げて笑っている。あんな顔で笑う人だったのか、と美咲は思った。父が声を上げて笑うところを、ほとんど見たことがなかった。

「あんたのお父さん、ここでは有名人やで」

後ろから山田さんの声がした。「野菜の品評会には毎年出品してはるし、草刈りの世話役もしてはる。頼りにされとるんよ」

「そうなんですか。知らなかったです」

「あんたのお父さんは、ちゃんとここで生きてはるで」

美咲は軽く頭を下げながら、また父のほうを見た。父は美咲に気づかず、まだ笑っていた。自分が知らないだけで、父にはここに確かな暮らしがあった。地域の人たちと笑って、役に立って、生きてきた。ここが父の居場所なのだ。美咲には、それがなんとなく誇らしかった。

午後になって、父が「黒枝豆、持って帰るか」と言った。美咲は「うん」とうなずいた。