夏の川は、嘘をつかない 〜西谷の水辺に消えた記憶と、子どもたちの声〜 #22-7

法要が終わると、西谷の空は嘘みたいに青かった。

波豆川のせせらぎが、遠くから届いてくる。

「蓮司さん!」

声が聞こえた。振り向くと、ケンタが畦道を走ってくる。後ろにユイとタクがついてきていた。

「もう帰るん?」

「ああ。また来るよ」

「いつ?」

即答できなかった。三年間、そういう約束を自分に禁じてきた気がする。約束して、守れなかったら——そう思うと、言葉が喉の手前で止まっていた。

ケンタが言った。

「石積みのコツ、まだ全部教えてもらってへん」

その言い方が、妙におかしかった。笑いが出た。久しぶりの笑いだった。

「わかった。また夏に来る」

「約束な」

「約束」

ケンタは満足そうに頷いた。

子どもたちが坂を駆け下りていく背中を見送ってから、蓮司はリュックを開けた。祖父のノートを確かめる。表紙の角が擦り切れている。その感触が、手のひらに馴染んでいた。

ポケットの中のスマートフォンに、指が触れた。

着信履歴の中に、同僚の名前がある。三年間、ずっと無視し続けてきた名前だった。

蓮司は画面を見つめた。川の音が、背中から聞こえてくる。

——間に合わなかった、で終わらせなくていい。

昨日、ケンタの手が背中に触れた瞬間に感じたことを、今もまだ覚えていた。

発信ボタンを押した。

呼び出し音が二回鳴って、相手が出た。

「……桐島?」

「俺です。遅くなって、すみませんでした」

それだけで、声が詰まった。向こうも、しばらく黙っていた。

川面が光っている。

蓮司はゆっくりと山を下りていった。