清流の番人 〜西谷、夏の夜に灯るもの〜 #27-5

翌朝、徳さんが縁側に座っていた。

膝の上に、古い封筒を置いていた。

「昨夜、川に行ったろ」

問いではなく、確認だった。光太郎がうなずくと、徳さんは封筒を差し出した。

「義雄くんから預かっとったんや。いつか光太郎が来たら、渡してくれって」

中に、一枚の写真があった。

若い義雄だった。

波豆川の淵の前に立ち、水面を指さして笑っていた。その笑い方が、蒼にそっくりだった。裏を返すと、鉛筆の走り書きがあった。

——この子に、いつか見せてやりたい。

光太郎は声が出なかった。

父は知っていたのだ。あの淵に、あの古い命が棲んでいることを。そして、それを息子に見せたいと思っていたことを。言葉にはしなかった。できなかったのか、しなかったのか、もうわからない。ただ、この一枚の紙切れに、ひっそりと預けていた。

「ありがとうございます」

声がかすれた。

蒼が横から写真を覗き込んだ。

「これ、おじいちゃん?」

「そうや」

「めっちゃ、嬉しそうな顔してる」

そうだった。父があんなに嬉しそうに笑っている顔を、光太郎は見た記憶がなかった。少なくとも、自分に向けて。

波豆の山は、朝の光の中でやわらかく霞んでいた。どこかで鳥が鳴いた。川の音だけが、変わらずそこにあった。

父はずっと、この川で待っていたのかもしれない。

光太郎は写真を、両手で持ち直した。