畑の暗号 〜西谷の土が教えてくれた秘密〜 #13-3

翌朝も、蓮は七時前に畑へ出た。

なぜかは、自分でもわからなかった。眠れなかったわけでも、義務があるわけでもない。ただ、あの霧の中にまだ何かが残っているような気がして、足が動いた。

ふゆはすでに来ていた。

「鍬、貸して」

蓮が言うと、ふゆは一瞬だけ眉を上げた。それから黙って、短めの鍬を差し出す。

「刃を寝かせすぎたら刺さらへん。立てすぎたら弾かれる。ちょうど中間」

言葉は短かったが、教えることには慣れているらしかった。

蓮は言われた通りに鍬を振り下ろした。硬い。土というものがこれほど抵抗するとは思わなかった。三度、五度、十度。やがて少しずつ、地面がほぐれていく。

その感触が、不思議なほど胸の内側に似ていた。

「黒瀬くん」

声がして、振り返ると、老人が畦道に立っていた。日焼けした顔に、深い皺。麦わら帽子を少し傾けて、こちらを見ている。

「藤原さん」とふゆが言った。「隣の農家さん。昔から西谷におる人」

老人は蓮の手元を眺め、それから深くうなずいた。

「よう来てくれた。黒瀬のじいさんが最後に耕してから、もう三年になるなあ」

「……祖父を、ご存知だったんですか」

「知っとるどころか」と藤原は笑った。「この畑はな、昔みんなで守っとったんや。波豆川の上流が荒れたとき、水を引き直してな。一人では無理やった。みんなで掘った」

みんなで、掘った。

その言葉が、蓮の耳の中でゆっくりと回転した。

土の中に、鍵があった。

みんなで守っていた、畑の、土の中に。

《藤原・西谷在住・祖父と共に畑を守った・「みんな」とは誰か》

スマホに打ち込みながら、蓮は自分の指先が微かに震えているのに気づいた。