試作当日の朝、三枝は自分の計算に酔っていた。
A4用紙三枚に及ぶ設計図。竹の節の位置、傾斜角、推定流速、そうめん一束あたりの適正水量。波豆川の十八・三度という数値まで組み込んだ、完璧な流しそうめん方程式だった。
水を流した。
そうめんを入れた。
詰まった。
竹の第二節と第三節のあいだで、そうめんは白く固まって止まった。まるでストライキを起こした労働組合のように、びくとも動かなかった。
「あー」とひなたが言った。
三枝は無言で設計図を見た。節の計算は正しい。流速も正しい。しかし竹というものは、理論に従わなかった。束ねた竹の重みで全体がわずかにたわみ、そこに微妙な逆勾配が生まれていた。
ガンさんは何も言わなかった。
ただ竹置き場へ歩いていき、一本を選んで戻ってきた。手際は、まるで長年使ってきた傘を取ってくるみたいに自然だった。二本の竹を入れ替え、腰を伸ばし、「やってみ」とだけ言った。
水を流した。そうめんを入れた。
走った。
竹の上を、白いそうめんがすいっと流れていった。どこかの物置から出てきた子どもたちが、気がつけば六人になっていた。歓声が上がるたびに、また一束が竹の上を走った。
三枝は少し離れた場所で、腕を組んで立っていた。
自分は何もしていない、と思った。計算も設計図も、竹一本で無効になった。誰も設計図のことを聞かなかった。誰も「ありがとう」とも言わなかった。
なのに、妙に清々しかった。
西谷の夏の空気が、鼻の奥をすっと通り抜けた。
「おじさん、食べへんの」とひなたが振り向いた。
三枝は少し考えてから、箸を受け取った。
