竹の中を、そうめんが走る 〜西谷の夏、四十二歳の見習い〜 #21-5

ひなたは、謎めいた顔をしていた。

「絶対においてくで」と、彼女は言った。小学四年生にしては大げさな「絶対に」だった。

三枝はついていった。西谷の山際、農業公園の裏手をさらに進んだ先、鬱蒼とした緑の中に小さな畑があった。

「これ」とひなたが指差した。

青じそだった。いや、青じそのような何かだった。葉がひとまわり小さく、切れ込みが深く、太陽の下で野性的な光り方をしていた。

三枝は一枚、摘まんで鼻に近づけた。

その瞬間、頭のどこかが開いた。

市販の青じそが「青じそについての説明文」だとすれば、これは「青じそそのもの」だった。鋭くて、青くて、少し怖いくらいに本物だった。

「何でこんなとこに」

「ひいおばあちゃんが昔から作ってるんやって。種、ずっとつないでるんやて」

種をつなぐ、という言葉が、三枝の胸のどこかに引っかかった。

「これで何か作れる?」とひなたが聞いた。

「作れる」と三枝は言った。気づいたら言っていた。

近くの農家から分けてもらった梅、おトメさんちから拝借した塩、それから胡麻と少しの酢。台所に戻って、試作が始まった。

一回目は酸っぱすぎた。

二回目は青じそが負けた。

三回目でひなたが「うーん」と首を傾げた。

四回目、三枝が「惜しい」とつぶやいた。

五回目。

ひなたが一口食べて、黙った。

それから「おいしい」と言った。

余計な言葉が、何もなかった。

三枝はその「おいしい」を、しばらく胸の中で転がした。スタッフに認められたことは何度もある。評論家に褒められたこともある。しかしひなたの「おいしい」は、それらとまるで違う種類のものだった。

もっと軽くて、もっと重かった。

夕方、田んぼのあぜ道を一人で歩いた。稲が風に揺れて、遠くで誰かが草刈り機を動かしていた。

料理が楽しかった、と三枝は思った。

その感情を、どこに置けばいいのか、まだわからなかった。