実家の玄関を開けると、母がソファから立ち上がろうとしていた。
「美咲、来てくれたんか。ごめんなあ、大したことないのに」
「大したことないって、入院してたんやで」
退院して三日が経っていた。母の顔色はよく、冗談を言いながら笑っていた。美咲はほっとすると同時に、三年間一度も帰らなかったことが急に恥ずかしくなった。
父の姿はなかった。「畑、行っとるわ」と母が言った。美咲は荷物を置いて窓の外を見た。柿の木の向こうに、小さな人影が動いている。西谷の秋の畑はいつも父のものだった。子どもの頃、その背中についていったことを思い出す。あの頃は、父が世界で一番大きく見えた。三年という時間は確かに長かった。
夕方になって父が戻ってきた。玄関で鉢合わせになり、二人はしばらく立ち尽くした。
「……帰ってきたか」
「うん」
父はそれだけ言うと、台所へ向かって手を洗いはじめた。会話はそれで終わりだった。母が「ごはんできるで」と声をかける。美咲は三人分の食器を取り出しながら、この台所の水の音を、ずっと前から知っていたことを思った。夕食の間、三人はほとんど黙ったままだった。それでもなぜか、食卓はあたたかかった。
