帰る日の朝、美咲は早起きして荷物をまとめた。母が台所に立っていて、「またすぐ来てや」と言った。
「うん、来る。今度はもっと早く」
玄関を出ると、父がバッグを持って待っていた。「バス停まで行く」と言う。
二人並んで歩いた。道の端に、まだダリアが咲いていた。朝の空気は冷たく、吐く息が白かった。父の歩く速さに合わせると、自然にゆっくりになった。それでいい、と美咲は思った。
「東京、寒なってきたやろ」
「うん。こっちも寒いわ。でも、気持ちええ寒さやね」
父は小さくうなずいた。
バス停に着くと、バスまで少し時間があった。二人はベンチに並んで座った。
「仕事、うまくいっとるか」
「まあまあかな。なんとかやってるよ」
「そうか」
それだけ言って、父はまた黙った。美咲は前を向いたまま、こみ上げてくるものをこらえた。こんなに近くに並んで座るのが、三年ぶりだった。
バスが来た。「乗れ」と父が立ち上がった。
「お父さん、また来るね」
「ああ」と父は言った。「待っとる」
ドアが閉まってバスが動き出す。窓から振り向くと、父がまだそこに立っていた。美咲は小さく手を振った。父も、ゆっくりと手を上げた。
