波豆川の川岸は、午後の日差しで白く光っていた。
浅瀬では子どもたちが水を蹴り、笑い声が飛び交っている。蓮司はその少し上流、木陰の岩に腰を下ろして、川の流れを眺めていた。
ミツさんに「散歩でもしてきい」と背中を押された。それだけの理由で来た場所だった。
そのとき、岸辺の浅瀬に一人の男の子が見えた。
流しそうめんの日に見た、あの少年だった。
水には入らず、川縁にしゃがみ込んで、石を積み上げている。小石を一つ、また一つ、慎重に重ねて。崩れると、また最初から。黙々と、ひたすらに。
蓮司の足は、気づけば動いていた。
「器用やな」
少年が顔を上げた。警戒する様子もなく、ただ蓮司を見た。
「泳げないから」
短い答えだった。それ以上でも以下でもない。
蓮司はその言葉をしばらく口の中で転がしてから、隣にしゃがんだ。
「俺も昔、泳げんかった」
少年が少し眉を動かした。
「この川で、じいちゃんに教えてもろたんや。泳ぎじゃなくて、石の積み方を」
「石の積み方?」
「水の中で積むと、難しいねん。流れがあるから。でも積めたときは、すごく気持ちいい」
少年は何も言わなかった。ただ、川を見た。
蓮司も川を見た。
どちらからともなく、石を拾い始めた。無言のまま、二人で並んで積む。崩れても、また積む。波豆川の水音だけが、ゆっくりと流れていった。
どのくらい経ったころだろう。
「ケンタっていいます」と少年が言った。
「蓮司」と蓮司は答えた。
また少し、沈黙が続いた。
「先生みたいな人?」
ケンタの問いは、さりげなかった。けれど蓮司の手が、止まった。
積みかけの石が、川に落ちた。
答えが、出てこなかった。
