夏の川は、嘘をつかない 〜西谷の水辺に消えた記憶と、子どもたちの声〜 #22-3

波豆川の川岸は、午後の日差しで白く光っていた。

浅瀬では子どもたちが水を蹴り、笑い声が飛び交っている。蓮司はその少し上流、木陰の岩に腰を下ろして、川の流れを眺めていた。

ミツさんに「散歩でもしてきい」と背中を押された。それだけの理由で来た場所だった。

そのとき、岸辺の浅瀬に一人の男の子が見えた。

流しそうめんの日に見た、あの少年だった。

水には入らず、川縁にしゃがみ込んで、石を積み上げている。小石を一つ、また一つ、慎重に重ねて。崩れると、また最初から。黙々と、ひたすらに。

蓮司の足は、気づけば動いていた。

「器用やな」

少年が顔を上げた。警戒する様子もなく、ただ蓮司を見た。

「泳げないから」

短い答えだった。それ以上でも以下でもない。

蓮司はその言葉をしばらく口の中で転がしてから、隣にしゃがんだ。

「俺も昔、泳げんかった」

少年が少し眉を動かした。

「この川で、じいちゃんに教えてもろたんや。泳ぎじゃなくて、石の積み方を」

「石の積み方?」

「水の中で積むと、難しいねん。流れがあるから。でも積めたときは、すごく気持ちいい」

少年は何も言わなかった。ただ、川を見た。

蓮司も川を見た。

どちらからともなく、石を拾い始めた。無言のまま、二人で並んで積む。崩れても、また積む。波豆川の水音だけが、ゆっくりと流れていった。

どのくらい経ったころだろう。

「ケンタっていいます」と少年が言った。

「蓮司」と蓮司は答えた。

また少し、沈黙が続いた。

「先生みたいな人?」

ケンタの問いは、さりげなかった。けれど蓮司の手が、止まった。

積みかけの石が、川に落ちた。

答えが、出てこなかった。