扉は、拍子抜けするほど静かに開いた。
錆びた蝶番がかすかに鳴いただけで、小屋は蓮たちを迎え入れた。
中は薄暗かった。西谷の夏の朝日が、板の隙間から細く差し込んでいる。土と木と、何か甘くかびた香り。積み上げられた農具の隙間に、ブリキの缶が一つ、棚に置かれていた。
「……あれ」
ふゆが先に気づいた。缶の蓋を開けると、中から出てきたのは、一冊のノートだった。
表紙には、鉛筆でこう書いてあった。
——『おわりの理由』
蓮は、喉が鳴った。
ページを開く手が、かすかに震えた。
文字は六人分、それぞれ違う筆跡で書かれていた。読み進めるにつれて、蓮の胸に奇妙な圧迫感が広がっていった。
資金が尽きたわけではなかった。仲間割れでもなかった。
そこに書かれていたのは、若者たちの静かな自己否定だった。
——畑を広げるたびに、水の配分で下流の農家に迷惑をかけた。獣害対策が甘くて、隣の田を荒らした。よそ者の自分たちがいるせいで、地域の和が乱れると言われた。
——続けることが、迷惑になる。
——消えた方が、いいのかもしれない。
蓮の手が止まった。
その言葉を、蓮は知っていた。
文字として知っているのではなく、身体の内側から知っていた。学校で何かがうまくいかなくなったあの夜、スマホのメモに打ち込んで、すぐに消した言葉と、骨格が同じだった。
「蓮」
ふゆの声がした。
顔を上げると、彼女はノートではなく蓮を見ていた。
「泣いてる?」
「……泣いてない」
でも声が、少し割れていた。
小屋の外で、波豆川の支流がさらさらと鳴っていた。世界は変わらず流れている。それが今、蓮にはひどく遠く、そしてひどくありがたかった。
