夏が終わろうとしていた。
波豆川の土手に、細い彼岸花が一本、咲きかけていた。
休眠の畑には、蓮とふゆが呼びかけた顔ぶれが集まっていた。藤原さんが草刈り鎌を持って来て、近所のおばあちゃんが煮物を持って来て、誰に頼まれたわけでもなく、人は集まった。
「収穫祭というより、草むしり大会やな」と藤原さんが笑った。
誰もが笑った。その笑い声が、山にいくらか吸われて消えた。
ふゆの父が来たのは、昼を過ぎた頃だった。
何も言わずに軽トラから降りて、荷台から鍬を一本取り出した。十年ぶりにその土地に立つ男の背中は、蓮が思っていたより小さかった。それでも鍬を振り下ろすたびに、土が気持ちよさそうに割れた。
ふゆは父の横顔を、しばらく黙って見ていた。それから、かすかに笑った。
蓮はその笑顔を盗み見て、スマホのメモを開いた。
——謎は解けた。でも一番の発見は、ここに来てよかったということだ。
打ち込んで、今度は消さなかった。
六人分の筆跡で綴られた『おわりの理由』は、決して終わりではなかった。消えようとした者たちも、土に還した思いも、時間をかけてこの畑の養分になっていた。謎の底に隠されていたのは、怪奇でも犯罪でもなく、傷ついた人間の正直さだった。
——そして蓮は知っていた。
あの夜メモに打ち込んで消した言葉も、同じ筆跡を持っていたことを。
西谷の風が吹いた。
黄金色に実った田んぼが、ゆっくりと、大きくうねった。まるで土地そのものが深呼吸をするように。
「蓮、芋掘るで」とふゆが土まみれの手で呼んだ。
「……今行く」
蓮は鍬を握った。硬い柄の感触が、手のひらに確かに伝わった。
